揮手自茲去

もう一つの夢は心の中に。

二つの魂を隔て一つに纏まり存在しなくなった国

 そんな国を舞台にした演劇を見終えて図書館へ向かった私はエリアスの「宮廷社会」と「文明化の過程」を自動化書庫から引き出すが、冷静に考えると一冊500ページぐらいの学術書を読み切る気力が今の僕には無いことに気づき、泣く泣く本が再び地に帰る為に用意された棚へ惜しみつつ彼らを安置する。

 好きな人間の体液に全く興味がわかないことは異常であると友人に言われたが、世の中そんなものなのだろうか。私の場合はそんな生々しいものよりも、其の人間が内部を世界に放出する書き言葉を始めとする諸形態から成る表現、つまりはエクリチュールに毎度強い関心を抱く。その人間が著者として世に出しているあらゆる書かれた言葉を読み尽すことで、その人が何を考え、何を思って、何を大事にして生きているのかという、その人の人生の価値観の輪郭を描いて、そして一人の人間を少しずつ理解していこうとするのが私の基本的な姿勢である。

 初恋相手が小さな作家さんだった故だろうか、私は周りが思う以上に人の残す書き言葉が今でも好きなのである。そんな私だから当然、同期の卒論を読める日を楽しみにしている。私の大学は素敵な世界を持った方々が多い、しかし中には素敵な内的世界を持っているような気はしても、世界に表現し切れていない人間も存在しており、やたらと言語表現を強いられる緑のキャンパスの下で四年間も過ごしていれば、いつぞやか成熟する日が来るのではないかと細やかながら祈り続ける。

 最後にどうでもよいが、エリザベートを見た序にエドワード8世やアナスタシア皇女のミュージカルを見に行きたい気分になった。肝心な部分で劇の感想とか書けない人間なので、色々言う僕の世界はやはり貧困に満ちている。だからこそ素敵な世界を持っている人間に惹かれてしまうのかもしれない。