揮手自茲去

もう一つの夢は心の中に。

心という器を取り扱えない君は永遠に群集の中で孤独な道化師を演じ続ける。

『まあ待て。まあ待て。話せばわかる。話せばわかるじゃないか』と犬養首相は何度も言いましたよ。若い私たちは興奮状態です。『問答いらぬ。撃て。撃て』と言ったんです。

 人が人を選ぶ時に中身を評価するまでもなく、外見という入門の段階で選択肢から弾いてしまう者が余りにも多い世の中では、言葉もまた同じ有様を持っている。つまりは人様に話を聞いて貰えなくなったら、幾ら言葉で想いを伝えようと努力しても、その物語は既にお終いなのである。過去に誰も耳を傾けない中、一人で延々と奇抜なアイデアを演説し続けていた人物を揶揄していた私であるが、気付けば私もその一人になってしまったのではないかと最近ふと考え続ける。

 誰かの心を掴もうとする前に、先ずは扉を閉めさせないこと、それを未来の教訓にしていこう。はたして一度閉ざされた門が再び開くことはあるのだろうか、少ない可能性を信じながら門を静かに軽く叩き続ける梅雨明けの森にて。