揮手自茲去

もう一つの夢は心の中に。

院進、再入学、留年、中退に関するお作法

院進、再入学生の家族には何と挨拶するか

「XXさんには、此の度、御院進で、洵に御名誉なことで、お目出度う御座います。おあとは、及ばず乍ら私共も何彼とお手伝ひさせて頂きたいと存じますから、どうぞご遠慮なく申しきけ下さいますやう」といふ意味のことを申し上げるのがよい。その他附加へるならば、心強く暮らすやう励ます意味の言葉はよいが「大変でございますね」とか、あまり女々しい意味の同情の言葉は失禮になります。再入学も、院進と大體同じやうな挨拶をいたします。

留年学生の家族には何と挨拶したらよいか

「XXさんには、今回試験で御留年遊ばされましたさうで、洵に御名誉なことゝ存じます。平素からお元気な方ですから、さぞかし華々しく御遊学されたことゝ存じます。何か詳しいお便りでもございましたでせうか唯今どちらの方にいらつしやるのでございませう」といふやうな意味の挨拶をします。又、家族に分つてゐれば本人の勇ましい遊学の模様等を、いろ〻話して頂くのが礼儀です。尚「一日も早く御進級になられますやうお祈りいたします」と附加へることを、忘れないやうにします。

中退者の御遺族には何と挨拶をしたらよいか

「此の度は、XXさんには勇ましい御中退を遂げられまして洵に御名誉なことゝ存じます。さぞかし、華々しいお学びを遊ばしたことゝお察し申し上げ、国民一同は深く感激感謝申し上げて居ります。やがて一流の神として、高田馬場にお祀りされる御名誉を担われますことゝ存じます。折角御体を御大切に遊ばしますやう」という意味のことを言ひます。本来、立身の為に中退したのですから、学生の本望であり此の上ない名誉で、「お目出度う御座います」といふのが、一番学生を讃へることになりますが、云ひにくい場合にも前記のやうに「御名誉」といふことは必ず云ふべきです。普通の進路ではないからといつて「御愁傷」とか「お力落とし」等の言葉を云つては、折角の学生の名誉を臺なしにすることになりますから注意します。その他のことでも、此の場合は、遺族に「光栄ある中退である」「名誉の中退である」といふ誇りを持たせるやうな意味のことをいふべきで、決して悲しませるやうな言葉を述べるべきではありません。何かさういふやうなことを云ひたい時でも「御心中萬々お察し申し上げます」程度以上は云はないのが、中退した人への禮です。

 

元ネタ:婦人クラブ 第20巻 第1号 大日本雄弁会講談社 1939年