揮手自茲去

もう一つの夢は心の中に。

地下に眠る学徒のメモリアル

 本学を卒業した学部生の卒業論文は図書館地階に存在する自動化書庫へ収納されることになっているが、その光景を思い浮かべてみたら、それは学生達の霊安室のように思えた。数年前は大学の中で活動していた生命体に代わり、そこには一冊の本となった彼らが安置される。大学だけがこの世であるなら、彼らは既に亡く、論文という骨壷に収められ永遠の眠りに付いた者達であり、装飾された表紙も卒業を迎えれば単なる収納容易な墓標になってしまう。寿命を迎えたたまごっちの画面に佇む十字架がふと脳裏に浮かんだ。

 無人の暗い書庫に於いて、使われなくなったカルテの如く学籍番号順に並ぶ彼らの名前、そこに在るものは本学に対して彼らの「この世」に於ける数年間の学術的意味と結果が書かれた紙の集まり、その多くは再び陽の目を見ることもないのだろう。彼処には、大学という「此の世」を去ってしまった学生の魂達が言葉として、論文に記述された形として毎日絶えず働く機械を側目に奥深い場所で眠っているのである。卒業した彼らの日々は戻ってこないが、彼らの痕跡は唯一卒業論文という形式によって公的に保存される。そこには多くの物語があったというのに。

 小学時代6年間、中高時代6年間、そして大学時代が4~5(?)年、人生の多くを学校という施設で過ごしてきた訳であるが、いよいよ終わりが近づいている気がする。延命は出来るのかもしれないが、あいにく私の周りをめぐる経済状況は宜しくない。この世から離れてしまう死を恐れるように、学園という「この世」から離れてしまう、もう一つの死に怯える者が果たして幾らいるのだろうか。