揮手自茲去

もう一つの夢は心の中に。

断捨離と学問

 何かを学ぶのに学部生という四年間は余りにも短すぎる、ある人は言った。自然科学の世界では今や修士まで行くことは殆ど当たり前の状況となりつつあり、四年という限られた時間ではもはや現代の学問の最先端に追い付くことは困難な時代となっている。況してや前半は必ずしも専門科目だけを学ぶわけではないのだから、実質的にはもっと少なめの年数で年々積み上がっていく学問の山を、よく先生方は学問を巨人に喩えて巨人の肩から世界を見渡せと言われるが、終わりなき成長期の下で永遠と伸び続ける巨人の脚をよじ登り続けるのは余程の根気が無ければ諦めてしまうことだろう。

 そして人は本のみに生きるにあらず。学問をするため大学に入ったという建前を多く人は揃えて口にするが、実際にはサークルやアルバイト、交際といった諸々の活動を行い各々の社会関係資本文化資本、経済資本に磨きを掛けている。それらは学徒の道に不要であると述べる者もいるが、人脈の構築や視野の広さを支え維持しているのはかくなる資本であり、それらなくして学問の道で成功するのも些か困難が伴うように見えるから二択を迫るような話にしてはならない。

 さて本題に入ろう。筆者はこの度、歴史学と数学の二重専攻で本学を卒業することは諦め、色々な思惑がありながらも社会学専攻に転進している最中である。受験生時代に政経や社会と言った名前を冠する学部を志望して散った身であるから、本来の場所に戻ってきたと考えることもできるがそれはさておき、学部だけで最先端に中々到達できないのは何も自然科学だけの話ではなく社会科学・人文科学にも言える話である。それらは言語学などは例外として体系が顕著に見えるものではないから、つまみ食いばかりしていればどうにでもなると考えている者が散見するものの、方法論や思想、学際的発想を詰めていったらキリが無いということに最近私自身も気付いてきた。

 社会学は大きく分けて質的と計量的の2つの流派に分かれるが、後者の場合にはデータを収集して解析するという学問の性質上、統計学の素養が不可欠である。そして統計学は既知の通り数学的基礎付けにより成立している学問であり、統計学の理論を一から理解するとなれば確率論(これを理解するためには大学の微分積分学が必要)と線形代数学が前提知識となる。私も不勉強ながら最初は前者だけで十分かと思っており(先日まで数学専攻を自称していたのに実は確率統計の授業を一年生の秋以降取っていないのである!)、日頃お世話になっている数学の教授から話を聞いて最小二乗法という言葉を思い出しながら見識を改めることができた。後日、回帰分析の教科書を確認したら少なくとも行列式の知識は必要であるなと直感的に感じることができたので先生の言われていることは正しいのだろう。チラッと見た感想なので具体的にどう使うかと言われても残念ながら答えられない。しかし時間は有限である。数学教授の言われる通りに履修計画を組み立ててしまっては、社会学の為に統計学を学ぶはずが気付いたら統計学を学ぶ為に数学徒に変わり果てていたという事態になりかねない。これを人は本末転倒と名付ける。数学みたいな体系的な学問は若いうちに、身近に先生がいる環境であるうちに学ぶべき、皆はそう言われる、確かにそうである。しかし望んでいたものと恐らく何か違うのである。

 さて道具を理解するために道具に飲み込まれる悲劇は回避するとして、いっそのこと統計学の使用者に徹して一切の基礎付けを無視することは妥当であるか。私はそこまで吹っ切れるのは就職するならまだしも、学者を目指すつもりなら少々マズいような気がしている。幾らコンピュータが発達しても使うのは人間であるから背景を知らないで用いると誤用が生じる可能性があったり…というのが定番の批判であろうが、もう一つの点を述べてみる。今の時代は巨大科学という研究者のチームワークを必要とした研究が多くなりつつあり一人の天才ではなく集団が結果を出していく風潮が存在している。また現代社会は多くの情報と人間が混じった魑魅魍魎の世界であり、巷では社会的ネットワークやビッグデータ解析という言葉が賑わっており、対象は今や一人で処理できる相手ではないのかもしれない。来る未知の世界を分析する為には自分で道具を作るノウハウも必要ではないかと思うが、上記の通りその為には人間から吸血鬼に変わるような一種の変化が必要となり重大な決意を要する。ということで元からの統計学者と協力していこうということになるわけだが、その時に基礎理論という共通語が無いとコミュニケーションが大変なのではないかというのが私の推測。ごめんなさい、これ以上論を展開できないので各自で上記の可能性をシミュレーションしてみて下さい。

   結局のところ、統計学をどの程度学べば良いのだろうか。統計学者になる気がなければ決して統計の専門家と同じ水準に並ぶ必要は無いのであるが、彼らと円滑なコミュニケーションが取れる程度の共通基盤を持っていた方が将来的にチームを組む際に効率的な研究を行えることは確かである。ということで数学科二年次程度の数学と統計の知識があれば十分ではないかと考える次第。大学卒業した後に学ぶのは大変そうだしね…

 こんな感じで社会学と其の周りに関して素人なりに色々調べて読んで話して聞いて思ったことを連ねていき、限られた時間の中で社会学に関連する諸分野をどの程度まで学べば、社会学専攻であるということを形骸化させずに、健全でバランスの良い学部生活を過ごせるか幾つかに分けて考察していくことにする。これを読んで計量は闇が深そうだから辞めとこうと考えた貴方、実は質的の方がより深い何かが潜んでいるかもしれない…?

備忘録

社会学 vs 統計学 done

社会学 vs 数学

社会学 vs 哲学・思想

社会学 vs 歴史学

社会学 vs カルスタ

方法論 vs 下位分野

社会学と…